2012年2月1日水曜日

入浴中のてんかん発作による事故

先日、悲しい知らせをお聞きしました。ご家族から、患者さんが入浴中にてんかん発作で亡くなられたとのことでした。

昨年は、運転中のてんかん発作がかなり問題となり、多くの患者さんが心配されました。運転しなくても免許のあることが身分証明書でもあるかのように扱われる現在、この問題は決して小さくありません。人を傷つけるかもしれないと周囲から見られて運転するのは辛いことです。ただ、発作による運転事故を予防するには明確な基準があり、これを守ってさえいれば人を傷つける危険はほとんどなく、まして患者さん本人が運転事故で亡くなることはありません。

また、多くの患者さんや医療者が懸念する、発作が止まらなくなる重積発作や、発作による直接的な事故も、十分な治療下であればほとんど経験しません。

しかし、気をつけているようでも溺死、特に自宅で入浴中の事故は跡を絶ちません。同じ水辺の事故でも川や海の事故は聞いたことがありますが、プールでは溺れそうになって途中で助けられたことがあっても、溺死の経験はありません。

自宅での入浴は毎日のように機会が多い上、問題なく過ごすことも多くて油断するのでしょう。特に、私の患者さんで亡くなられた人のほとんどは、発作がむしろ改善してきた人たちでした。日単位、週単位で起きていた発作が少なくなり、一緒に「良かったね」と言っていた矢先であることが多いのです。

毎週何度も起きていた意識消失発作がなくなり、それまで年老いた母親と共に入浴していた娘さんは、もう大丈夫だと油断して一人で入浴中に事故に遭いました。また、発作の前兆があるから危険を避けられると油断していた男性も、一人で入浴中に事故で帰らなくなりました。

こんなことを書かざるを得ないのは、事故で亡くなられた患者さんは、私がそれまでに何度も入浴の危険性を話してきた人たちでもあったからです。すべてのてんかん患者さんに、かなりの時間を割いて入浴の危険性を説明してきましたが、それでもこうしたことが繰り返されます。

寒い季節になると、シャワーだけで過ごせと話すのは酷に聞こえるかもしれませんが、一人で入浴することがどれほど危険か考えてほしいのです。何年も発作がないある女性の患者さんは、子供が成人するまでは死ねないからと言って、冬でもシャワーだけで過ごしています。

ご夫婦であれば恥ずかしがらずに一緒に入浴するように、乳幼児でなければ子供と一緒に入浴するように指導してきました。誰か、発作を自動で感知して即座に水が抜ける浴槽を作ってくれないものかと考えたりもします。

患者さんとの何年にもわたる共同作業で、服薬治療を組み立ててきた末、こうした結果に至ってしまうと、どうしようもない無力感に襲われます。発作を抑制しようとしたこと自体が良かったんだろうかとまで思えてしまうのです。