てんかんにおける精神・行動障害4

感情(気分)障害 
うつ病、躁うつ病と類似の症状です。精神的な合併症状としてはうつ状態が一般的で、躁状態を呈することは稀です。海外の文献には、うつ状態の罹患率はてんかんの場合、一般人口の二倍以上、自殺の発生率は五倍以上などと言われます。てんかんに関わらず、感情の状態は生活の質、すなわちQOLに強く影響します。うつをきちんと治さないと社会生活をすることが困難になります。症状は、眠れないという睡眠障害が最も多く、寝付けない(就眠障害)場合や、朝早くに目が覚めて起きるまで悶々としている(早朝覚醒)ようになります。食欲不振、性欲減退を呈し、疲れやすく(易疲労感)、気力低下や意欲減退を示す、精神運動抑制(制止)という状態になります。全てのことに関心・興味を失って喜びがなく、当然、気分は低下します。
てんかんの場合、大脳辺縁系の側頭葉がうつとなる原因に関与していると指摘されています。抗てんかん薬による抑うつ状態の場合もあります。また、就労生活状況によっても変わります。一般社会でも経済が下降した現在、うつ病が急増していますが、経済状態、家庭状況にも影響されます。

症例⑦ うつ病
三十八歳の男性の症例です。二十四歳時、胸部不快感に始まる意識減損する発作が出現しましたが、てんかんと思わずに治療は受けていません。三十二歳時、意識がボーッとするような発作、全身けいれんが出現して、抗てんかん薬が開始されました。既に結婚して仕事もしていました。三十四歳時、複雑部分発作が完全に抑制できないため、当科を初診しました。二回にわたる精査で右側頭葉てんかんと診断されました。テグレトールが無効で、発作は十分抑制できず、数カ月単位で発作が出現しました。アレビアチンの副作用で両下肢が痺れて、痛みを訴えるまでに至ったため、アクセノンに変更したところ発作が消失しました。ところが物忘れがひどいと訴えるようになりました。当初、側頭葉てんかんだから記憶が悪くなることもあると判断し、特に治療もしなかったのですが、次第に勤務に支障が出てきました。妻の話では、夜寝られずに朝までずっと起きている、帰宅後もほとんど何もせず、ふさぎこみがちで会話もないということでした。診察時、詳細に話を聞くとさめざめと泣き出してしまいました。抑うつ状態と判断して抗うつ薬を開始すると共に、休職処置をとりました。二週間ほどで症状が軽快を示し、一か月以上休職しましたが、職場に復帰できました。
私の判断が甘くて、側頭葉てんかんだから記銘力が落ちることもある、と見逃してしまうところでした。同様に、てんかんに合併したうつ病は見逃されている可能性があります。