社会復帰に向けて

おわりに
てんかん治療の最終目標
てんかん治療の最終目標はあくまでも“社会復帰である”ということを強調したいと思います。社会復帰のゴールはみなさんそれぞれ違います。精神・行動障害のほうは、てんかん発作が治ってから考えようという親御さんが非常に多いのですが、それは大きな間違いです。
てんかん発作が治ってからではもう遅いという場合もあります。“常に”発作が改善した後のことを考えていく必要があります。最終的には家族と離れての社会参加を目指します。両親と一緒に生活できる時間というのは、そう長くはありません。患者さん自身はいずれ一人で生活していかなければなるでしょう。“一人で生活する”ということを目標にして生活設計をすべきだろうと思います。親と患者さんの問題としてではなく、赤の他人と患者さんの関係を重視してください。情動のコントロールは対人関係では必須になります。欲望をコントロールすることが重要です。過食、欲望を満たさないと我慢できない、ということに関しては教育的配慮しかあり得ません。小さい頃から指導することです。“教育年齢の時に生活指導をすること”が非常に大切だと思っています。発作だけ見ていて、「そのうち治る」と思っていても、下手をすると「そのうち」がかなり長くなることがあります。

社会復帰に向けて
社会復帰の前提として、十分な状況認識をして欲しいと思います。発作だけではありません。発作の随伴症状、高次脳機能障害もそれらに含まれます。
本人、家族、職場、それぞれの立場で立たされた状況を考えます。職場をあえて入れました。障害内容を三者、お互いの立場から理解、共有することです。第一歩となる実現可能な目標を設定していただきたいと思います。
支援センターや作業所は嫌いだから普通に働きたいと言っても、作業所に行くことができない人がどうして普通に働けるのでしょうか?それでは先に進めません。実現可能な、具体的な目標を設定することが必要です。その目標は次々と変わっていくこともあるでしょう。
社会復帰を前提として治療を再検討する必要もあります。副作用軽減のために薬の内容を再検討します。社会に出ることが最優先だからです。一日中眠くなる薬を飲んで、社会生活に影響を与えることの少ない発作を減らすだけであれば、少しくらい発作頻度が増加しても日常生活の質(QOL)を上げるために薬を整理することがあります。てんかん発作さえ無くなればすべてOKとは考えません。場合によってはてんかん外科手術も考慮されますが、総合的な判断が必要となります。しばしば、発作さえなくなればと考えてしまう方が多いのですが、てんかんの発作だけを中心に考えてしまうと問題の本質を見失います。
社会的な援助と精神的なサポートについては、地域によって異なる社会的資源を良く知り、活用していただきたいと思います。

大切な「自己状況把握」
十分な病状の認識をするために、発作状況をよく理解することが大切です。発作と発作を誘引する問題、例えば、寝不足、薬の飲み忘れで必ず発作を起こす、いつも同じパターンで発作を起こす場合は、まずこの事実を理解することが大切です。この誘因を理解しないと回避は無理です。どうやって回避するか、回避の仕方を考えることも必要です。発作が起きそうになった時は、トイレに駆け込んでなんとか逃げるという患者さんもいます。そういう時には患者さんだけでなく周りの人や職場の人が手伝ってくれるとありがたいと思います。
てんかんに随伴する症状、知的障害、高次脳機能障害、精神症状なども理解する必要があります。社会生活能力を向上させるために、対人関係の改善も必要になります。すなわち、患者さんに言いたいのですが、自分だけのことを考えてはいけません。“自分は”ではなく、“人は”どう考えるか、人は自分の言っていることをどう受け止めるのか、ということに常に注意を向けるべきでしょう。他者の視点で自己評価できるようにしていただきたいと思います。


社団法人 日本てんかん協会東京都支部 2009年11月29日講演会の内容を「ともしび」2010年11月号、および12月号に掲載