慢性疾患に共通する心理・社会的障害
依存的で未熟な性格傾向があり、特有な家族関係(特に母子関係)が見られ、社会性が欠如していることが多く見られます。限られた人間関係と、社会経験しかないので、適切な自己表現ができず、特に対人的距離を保つのが困難になります。特に、小児のてんかん患者のお父さんお母さんに申し上げたいのは、“早期から教育指導が必要だ”ということです。てんかんが治ったら次のことを考えましょう、というのでは遅くなってしまいます。発作があろうが無かろうが、早期からの教育指導は非常に大切です。
統合失調症様の症状
統合失調症(以前は、分裂病といわれていました)と似たような幻覚や妄想が、発作と関係なく出してくる場合があります。幻覚や妄想を陽性症状とも言い表しますが、幻覚は幻聴が圧倒的に多く、幻視はほとんどありません。妄想は対人的な関係被害妄想の形をとることが多く、通常の統合失調症と比べると、妄想はより現実的で体系的であることは少なく、一貫していません。幻覚は状況に影響されやすく、感情が保たれており、統合失調症の様な人格変化はないとされます。
症例⑥ 挿間性精神病状態
三十二歳の男性の症例です。九歳の時、夕食時に全身けいれんが起きて発症しました。小児科で治療が開始されて、デパケンが投与され、発作は消失しました。二十一歳時、日中の前兆を伴わない意識消失発作が再発しました。その後、睡眠中のけいれんが出現したため、二十五歳時に当科を受診しました。アレビアチンと、フェノバールで発作は消失しましたが、三十二歳時に独りごとを言ったり、ニヤニヤして笑いだしたりすることがしばしばあり、御両親が精神医学的な診察を希望したため、以来、私が診るようになりました。脳波で右側頭部に異常があり、側頭葉てんかんと言われていました。診察時、待たせことを理由に突然、私に殴りかかろうとしました。二時間以上話を聞いているうちに、活発な幻聴があり、「自分の考えが抜き取られる」「悟られてしまう」というさせられ体験(作為体験)があることも明らかになりました。興奮していて活発な幻聴があるので、本来、精神科入院の適用なのですが、当院にはその施設がありません。他の精神科入院を勧めましたが、患者本人が絶対に嫌だと言い、家族も精神科入院を望まないため、仕方なく外来で治療開始することになりました。精神安定剤を追加投与し、フェノバールを減らしていきました。その後も「サトラレ」があるという訴えは執拗に続きました。「サトラレ」という漫画を持ってきて、「俺はこれだ」と言ったりします。一か月毎に通院と家族による状況報告もしてもらった結果、二ヶ月くらいして徐々に表情が穏やかになり、半年後には病的な精神症状はほぼ全て消失しました。
一年後には運転助手として働くようになり、結婚して、奥さんに支えられて生活は安定しましたが、精神安定剤は続けています。この方は当初、急性精神病状態を呈していました。こうした状況で精神病院に入院する方が多くいます。この方はラッキーなことに入院しないで済みました。外来で使った薬がたまたま十分に効果があったためでした。