てんかん発作の自然経過

てんかんに合併した行動障害
国立病院機構 静岡てんかん・神経医療センター 
精神科 中村 文裕

はじめに
今回のテーマは行動障害となっていますが、広く精神症状ととらえて話を進めたいと思います。特に大人のてんかんを診ている立場から話をしますが、子供のてんかんの場合も、将来関係する話と思ってお聞きください。
まず、以前私が勤めていた大学病院の統計から、成人のてんかん外来に来る患者さんの話をします。当時診ていた七二〇人の年齢分布を示します(図1)。〇~四歳、五~九歳、と五歳間隔で、女性と男性の患者さんの数を表示しています。「子供はいないじゃないか」と気付かれるかと思いますが、大学病院みたいなところは機能分化していて、二十歳前後までは小児科が担当します。大人を診る医者はだいたい二十代から上の年齢層の人を対象にします。中心層は、二十~四十代です。その上の年齢で、新たに受診する中高年では、脳腫瘍や外傷、手術などからてんかんになる方がいますが、全体として多くありません。最近、六十代以上の高齢者のてんかんが問題になっていますが、ここでは少数です。つまり、てんかんは“若い人の病気”であるということです。てんかんの患者さんは十年二十年したらどうなっていくのか追っていくと、多くの方が通院しなくて良い状況になります。



成人の部分てんかん
患者さんのてんかん分類を示します(図2の左)。大学病院や総合病院の外来に来る方の88%、つまり九割近くは、症候性局在関連てんかん、いわゆる部分てんかんに分類されます。わずか9%が遺伝的な病気を背景にして出てきている特発性全般てんかんです。しかし、小児科では特発性全般てんかんははるかに多いはずです。特発性全般てんかんはその多くが良性で小児期に治療が終結しますので、二十歳以降、大人のてんかんを扱う診療科に移る患者さんは少ないのです。
一方、症候性全般てんかんも3%と少数です。私がてんかんの医者になったばかりの頃、いわゆるレンノックス・ガストー症候群は、もっと多かったのですが、最近の傾向として施設内の治療に終始して、一般病院の外来にはなかなか来られない事情があるのではないかと考えています。
ここでは90%近い部分てんかんのお話をしたいと思います。88%の中身を示した右の円グラフです(図2の右)。約半分はどこに問題があるのか分からない方です。もう半分の中で一番多いのは側頭葉てんかんです。全体の21%が側頭葉てんかんです。次いで、前頭葉、後頭葉となっています。頭頂葉もありますが、非常に狭い領域で、そこから発作が始まることが確定診断できないことが多く、省かれています。
次は何歳からてんかんとしての病気が発症したかというグラフです(図3)。初発年齢を五歳間隔でグラフにしたものです。圧倒的に二十歳以下が多いということが分かります。二十歳以上の発症は多くありません。二十代を超えて発症してくる患者さんは病因も異なります。交通事故、頭部外傷、血管障害、脳腫瘍、脳炎等が多くなります。女性の場合、初潮が始まった直後ぐらいからてんかんの発生率は急に上がります。
以上のことから強調したいのは、基本的に“てんかん発作は成長と共に出てくるが、老化とともに去っていく”ということです。

 


てんかん発作の自然経過
てんかんは慢性疾患ですから、長い経過の中で治療を考える視点も必要です。症例によって条件は異なりますが、患者さんの治療と生活設計を考える上で、今どこに立っているのかを考えてみることは重要な手がかりを与えてくれます。
“特発性てんかんは成人以後に自然治癒するものが多い”ため、慌てずに間違いなく治癒していくコースに乗せてあげることが重要です。むしろ、副次的に出てくる教育上、社会生活上の問題を考えることに力点を置くべきです。
部分てんかんの自然経過を考える上で、部分てんかんの主要な三つを側頭葉、前頭葉、後頭葉に分けて示します (図4) 。側頭葉てんかんの年齢分布のカーブは比較的高齢になるまで続いています。ところが前頭葉てんかんは急にその数が上がり、三十代四十代がピークでいわゆるボリュームゾーンとなります。後頭葉てんかんはその中間です。ここで重要なことは、“部分てんかんでも、中身によって予後が違う”ということです。すなわち、前頭葉てんかんは二十代三十代で適切な治療を受けると、比較的あとを引かないでよくなる場合があります。一方で側頭葉てんかんはどちらかというと年をとっても病院に来ている可能性が高い。側頭葉てんかんはほぼ確立された定型的な手術手技と良好な手術成績のため、外科的治療も考えられます。しかし、前頭葉てんかんとなると、外科的な侵襲的治療までやるべきかどうかは慎重に考えねばなりません。更に前頭葉てんかんでは三十代四十代になると、それまで多かった発作がぐっと少なくなることがあり得るのです。側頭葉てんかんの場合はどうしても罹病期間が長くなりますので、精神症状、行動障害を起こす機会も多くなってきます。
ただし、十代後半から二十代後半は、部分てんかんに共通する、発作が顕在化するピークの時期です。更に、進学・就職があったり、女性の場合は妊娠・出産があったりするため、どうやってこの時期を乗り越えていくかということにエネルギーを注ぐ必要があります。