2017年10月11日水曜日

SSRIは危険な薬?

長くブログを書かずに放置してきましたが、怠け心を刺激する事例が相次ぎましたので、また少し書いてみることとしました。
 
最近、インターネットで薬の危険性を煽るような記事が多いためか、患者さんの向精神薬による警戒心の強さを感じます。具体的には、初診時からあまり薬を使いたくないとか、依存性のない薬にして欲しいとかの要望が強いのです。医師に対する信頼が低下している表れとも感じられますが、当院としての考え方を表明することは必要と思いました。
 
現在、心療内科・精神科において不安・抑うつ症状に対して第一選択としてSSRI(選択的セロトニン再取り込み抑制剤)と呼ばれる薬物が最も多く使われています。具体的には、パロキセチン(パキシル)、エスシタロプラム(レクサプロ)、セルトラリン(ジェイゾロフト)、フルボキサミン(デプロメール、ルボックス)と呼ばれる薬剤です。
 
SSRIは、うつ病・うつ状態に対して、それまでの三環系、四環系抗うつ薬と呼ばれるような古い世代の治療薬に代わって主流となりました。副作用が圧倒的に少ないことと、効果発現が早いことなどが主な理由とされてきました。SSRIは、うつ病・うつ状態に対してだけでなく、今日ではパニック障害に代表される強い不安、特に将来に対する不安である、予期不安に対して効果が強いこともよく知られ、社会不安障害、外傷後ストレス障害、さらに強迫性障害にまで適応は広がっています。
 
現在の精神科外来において見られるうつ病は、数十年前に多く見られた、患者さん自身に原因があると推定される、いわゆる内因性うつ病は相対的にかなり少数となり、環境要因が明らかであるうつ状態(広い意味での適応障害)が圧倒的に多くなりました。これは持続的な不安状況を背景とし、従来の抗うつ薬よりもSSRI向きの状況で、結果的にSSRIがうつ病・うつ状態治療の主流となり得たとも考えられます。
 
日本にSSRIが導入されたのは、例によって他の先進国よりかなり遅れたため、マスコミはなぜこの魔法の薬が導入されないのかと盛んに煽り立てた時期もあったほどでした。しかし、SSRIが広く使えるようになると、副作用を考えて慎重に投与しなければならない、専門家向きの三環系抗うつ薬と比べ、専門外の内科医でも気軽に使用できるSSRIは、必要以上に使用されるようになりました。
 
三環系抗うつ薬よりは安全と言っても、SSRIも薬ですから副作用があります。薬を突然中止した時の離脱症状で、浮動性めまいや頭痛、嘔吐などが見られることは広く知られた事実ですが、ネット上では容易に中止できない恐い薬であり、依存性があるなどと書かれたりします。適応外の患者さんに処方すれば脱抑制を起こしたり、刺激してしまうことも十分あり、誤った診断や不適切な処方が問題であることが多くあります。
 
以前書いたことのある、ベンゾジアゼピン系薬剤と比べれば、SSRIは効果が減弱して使用量が増える耐性(依存性)出現の心配はなく、慎重に減量する限り離脱症状をきたすことなく、中止も難しくありません。ただ、パニック障害などでは、減量中、あるいは中断後に不安発作が再燃することがありますが、これを依存症とか、離脱症状とは言いません。しばらく症状がなければ、段階的に減量・中止するのは他の薬剤と何ら基本的に違いはなく、当院では十分な説明の上で治療中断に応じています。少なくとも飲み続けなければならない薬剤ではありません。