2011年7月7日木曜日

ラミクタールについて①

てんかんの薬として日本で数年前から使われているラモトリギン(ラミクタール)には、特別な思いがあります。今月から、双極性障害(躁うつ病)の薬としても認可されたことから、より一般的に使われることになるでしょうが、一抹の懸念があります。

この薬が治験薬として登場したのは、今から20年近く前のことです。私が大学から研修医として静岡東病院(現在の静岡てんかん・神経医療センター)に派遣されていた時でした。当時、初めて患者さんに投与する薬の量(初期投与量)は、現在の使用量よりはるかに多かったことが災いしたのでしょうが、約1割の患者さんで薬疹(アレルギー反応)が出現しました。当直医をしていた時に、治験でこの薬を使っていた患者さんに、皮膚に明らかな赤い斑点が出たため、効果があるので中止しないでくれと懇願する患者さんの訴えにもかかわらず、中止を命じたことを今でも覚えています。

一方で、私が担当した患者さんの中に、この薬で人生が好転した人もいます。1年近い入院生活中に当時使える全ての抗てんかん薬を試し、意識が消失する、あるいは全身痙攣に至る週単位の発作が抑制できなかった患者さんで、当時主治医の私も頭を抱えた20歳近い男性でした。当時の発作ビデオで、左右に異なるてんかん原性焦点があることが示唆される、難治症例です。だめでもともとと考えて使ったこの治験薬が著効し、発作はほぼ完全に抑制されました。その後、患者さんは結婚してお子さんがいると伝え聞いています。

治験がその後も続けられる間に私は大学に戻り、てんかん治療グループのチーフとして再びこの薬の毒性を思い知らされることになります。別の医師が治験中に使った一人の患者さんで重症薬疹(スティーブンス・ジョンソン症候群)が出たことです。薬疹が恐ろしいのは、粘膜にアレルギー反応が及ぶことで、特に眼球粘膜である結膜や角膜に及んでしまうことです。眼科医の努力にもかかわらず、非常に残念なことに薬疹が角膜と涙腺に及んで失明に至ってしまいました。

薬=毒であることを肝に銘じられた薬なのです。