てんかんにおける精神・行動障害5

てんかん発作と直接関係する精神・行動障害
てんかん発作と関係する精神的症状は、発作との時間関係で、精神症状が発作前に起こったのか、発作中に起こったのか、発作後に起こったのかで分類されます。
てんかん発作後に見られる精神症状の中で最も頻度が多いのは、発作後の朦朧状態(意識障害)です。けいれん発作の直後に見られます。また、てんかん発作後に見られる精神症状として、頻度は多いとはいえませんが忘れてはならないものに発作後の精神病状態(幻覚・妄想)が上げられます。

症例⑧ 発作後朦朧状態(意識障害)
四十五歳の男性の症例を示します。十八歳時に脳炎で全身けいれん重積状態となり、知的障害とてんかんを残して回復しました。発作後に精神症状が持続するため、しばしば精神病院の入退院を繰り返し、一年以上の長期入院もありました。当院での薬剤調整を勧められて入院となりました。発作間欠期脳波で左側頭部に異常が認められました。中等度の知的障害が見られました。週単位で「うぉー」と大きな声を出した後にボーッとする複雑部分発作が十数分間持続します。発作後に、頭痛、胸が苦しいなどと数時間にわたって訴え続けます。また、突然意識消失してけいれんになることもありました。発作後に突然、「全て分かった。おれは神だ」などと言って朦朧として歩き回ることも頻繁にありました。自宅でも発作後に数時間から半日外に出て行ってしまうことがあり、発作後の記憶なく、家族はこれを抑制できず途方にくれてしまいました。発作後の朦朧状態は社会的にかなり問題になります。抗てんかん薬の多剤治療と安定剤を多量に服用しており、これもかえって悪影響していると考えられたため、減薬・生理しましたが発作が抑制できませんでした。ガバペンを導入するなどして持続時間が短くなると共に、けいれんの持続時間が短くなり、朦朧状態を呈することが著しく減少しました。

症例⑨ 発作後精神病状態(幻覚・妄想)
三十五歳の男性の症例を示します。五歳時に全身けいれんを起こし、意識障害となりました。2週間後に水痘後脳炎と判明。左半身不全麻痺を残して回復しました。複雑部分発作とけいれんが数カ月単位で出現したため、てんかんとして治療が始まりました。高校卒業後に発作頻度が増加。二十五歳の時、全身けいれん後、興奮し、被害妄想が出現して、精神病院に入院となりしました。同様の一過性の精神症状はけいれん発作後に再燃し、毎年入院を繰り返しました。発作間欠時脳波に両側頭部、頭部MRIで右側頭部に異常が認められ、側頭葉てんかんと診断されました。当科に入院して抗てんかん薬の調整中にけいれん出現しましたが、発作直後は普通に戻りましたが、二日後から次第に落ち着かなくなり、不穏を呈してきました。三日後から全く眠らず、「みんなが自分の命を狙っている」「テレビで噂話をされている」などと言い出しました。興奮状態が続き、夜中も眠ろうとしません。個室に移して安定剤の注射を続け、三~四日後に徐々に精神症状は消失しました。同様の精神症状は1-2ヶ月毎、ほとんどがけいれん発作の数日後に出現しました。一過性の急性精神病状態ですが、それまでは発作後二~三日してから起きるため、てんかん発作とは関係ないと考えられていました。
本症例では多量の安定剤が継続的に投与されていましたが、これらを整理すると共に抗てんかん薬の調整をしていく過程で、けいれん発作に至らなくなり、ボーッとする複雑部分発作に留まるにつれて関係妄想などの症状は軽減・消失したため、退院することができました。

精神症状の治療
以上の様に、これらのてんかん発作と直接関係のある精神症状は、てんかん発作の治療で軽減・消失します。発作後の意識障害や幻覚・妄想は発作後の脳の疲弊によると考えられますが、急性期治療は精神科治療が不可欠です。しかし、表面的な精神症状の治療とは別に、てんかん発作の治療をしなければ同様の精神症状を繰り返すだけで本質的な解決にはなりません。
発作と直接関係しない精神症状の場合、偽発作、神経症症状などの治療は環境調整が主体です。躁うつ病、幻覚妄想は精神科的な治療を要します。これらを抜きに、てんかん発作の治療だけを行なっても病状は改善しません。